医者という生き物が愉快すぎる
丁寧に言えばいい物ではない。
医者という生き物は愉快だ。
アトピーでそこそこ重度のアレルギー体質を持ち、父親の仕事の転勤による引っ越しを繰り返してきた私は、これまでの17年間でたくさんの医者に出会い、治療を受けてきた。
そこで出会った何人かの愉快な(元)主治医の話をしたいと思う。
現在のメンクリの主治医は、30代後半と思われる男性医師。
私はよく彼の診察で、「自己嫌悪が強い(自己肯定感が低い)」と言われる。
そのたびに主治医が「毎日自分のよかったところを5つ日記に書いてください」と言う。
さて私は医者の認める自己肯定感が低い人間、そしてブログの更新もほぼしないような飽き性である。
続くわけがない。
ところで私のメンクリには公式ホームページが存在する。なぜか院長のブログというコーナーすらある。
その院長のブログは開院時にはよく更新されていたものの、10月に思い出したように3日連続更新があったあと、そのブログは途切れている。
見事な三日坊主である。
私はいつも診察を受けるたび、三日坊主のお前が言うな、と思う。
私が現在通っている皮膚科の主治医は、評判がとてもいい。
指導は厳しいが、彼の処方は丁寧であり適切なのだ。
そのため、病院はいつ行っても混んでいて診察までかなり待つことになるので、私は学校帰り、受付時間終了ぎりぎりを狙って受診している。
それは私がその病院に通い始めて間もない頃の診察である。
彼はあらかた診察を終えたあと、私の着ていた制服を見て、学校名を言い当てた。
そしてそばの看護師さんを指さし、
「彼女も、○○高校の卒業生なんだよ」
なぜそこまで覚えているのだ。
1年後、私は部活の大会の前に病院を訪れた。平日の午前中だったため、病院は比較的空いていた。私はもちろん制服姿である。
彼はあらかた診察を終えたあと、私の着ていた制服を見て、やはり学校名を言い当てた。
そしてそばの看護師さんを指さし、
「彼女も、○○高校の卒業生なんだよ」
それは1年前聞いた。
「僕も実は○○高校の卒業生なんだよ」
それは1年前に言ってくれ。
驚く私に、先生はあっけらかんとしてそうだよ、と答え、なぜか始まるは思い出語り。
「いやあ、僕の頃は○○高も色んな生徒がいてねぇ」
その前に主治医は何歳なのだろうか。
しかしいつでも病院は混んでおり、私はまだその答えを聞けずにいる。
私の通う内科は規模が小さい。
おじいさん先生と数人のおばさん看護師とおばさん受付で運営されている。
そこはいつもガラガラである。なぜ潰れないのだろう、と不思議になるくらいには。
私はめまい止めをもらうために通院しているが、病院で他の患者に出会ったのは2度、2人ともお年寄りの方である。
彼はいつも受付後すぐ、わざわざ院長室から待合室を通って診察室へ移動し、診察室で私に「変わりない?」と聞いてくる。
しかしこのときの診察はいつもと違っていた。
まず、病院に入った瞬間に、院長室からテレビの音が漏れ聞こえてくるのである。
ちなみに彼は耳が遠い。
そしてほどなく院長室から彼が出てきて、ゆっくりと診察室に移動。私の名前が呼ばれる。
返事をした瞬間、私はもちろん待合室にいるのだがなぜか診察が始まった。待合室には私と受付のおばさんしかいない。
「いつもと変わらないね!?」
なぜか決めつけてくるが、私は席を立ち急いで診察室へ移動しながら「ハイ変わりません!」と大声で返事をする。変わらないものは変わらないのである。
「じゃあいつも通り出しておくから!」
「お願いします」診察は終了である。
その瞬間、私は彼の前に立ちつくしていた。
彼はついに、“診察を10秒で終わらせる”、そして“患者を診察室に座らせない”という高等テクニックを体得し披露してきたのである。
そのテレビ番組がよっぽど面白かったのだろう。
私は未だにそのテレビ番組が何だったのか気になっている。
私が小学生になって初めて訪れた皮膚科は、当時の自宅の近所にある建物の綺麗な個人病院だった。近所に皮膚科は少なく、かなり混んでいたのを覚えている。
そこの駐車場の左端に、いつも大きな車が止まっていた。
光り輝く白いベンツである。
当時の私は、病院の駐車場の定位置に高そうな車が止まっているのが不思議で仕方なかったが、あとになってそれが主治医の愛車だということを知った。
その病院がニコニコ黒字経営だったのは間違いがないだろう。
私が小学校高学年~中1の頃住んでいた町は人口が少なく、専門の皮膚科が存在しなかった。
最初の頃は白いベンツの病院に通っていたが、それはかなり大変なものだったので、私は伯父(父の姉の夫)の親類が勤めている民営病院の皮膚科(実際は内科医の片手間)で薬を処方してもらっていた。
私はいつもその病院の院長の診察を受けていたが、あるとき、その院長が出張のため病院を空けているというので、副院長の診察を受けた。
彼は私の伯父とよく似ていた。
彼こそが伯父の親類―――私の父の姉の夫のいとこだったのである。私から見て7親等の親戚にあたる方で、そこまで来ると最早他人だが、母は伯父のことを話した。
「ああ、□□くんの親戚なの!すごい偶然だ!」
冷静に考えれば彼とは血の繋がりもない他人なのだが、その日、話は大いに盛り上がった。
その日の診察は崩壊した。
病院にはどこかしらが不調な人間が集まる。
彼らと接し、また人の死を看取っているからか、医者という生き物は強くて明るい人が多いように思う。
しかし医者は患者に対して容赦がないので、私はできれば彼らの世話にはなりたくない。これ以上主治医が増えないように祈っている。